開発日誌 平成二十九年九月


9/22

 飛鳥で打ってゐるが、やはり右手といふか右腕が痛い……。配列によつてうちやすさが左右されてしまふのは、仕様として、もはや已むを得まい。蜂蜜小梅配列といふ、飛鳥配列とのライバル的関係とされる配列の配列表をみたら、わりと相性がよささうだったのでいれてみる。中々よい。難波江につかふと、鍵が飛鳥より分散する。日本語入力としては、親指シフト方式ながらシフト打鍵率が低く複雑な操作の負担がすくないのや、右小指の比重が軽いのや、歴史的仮名遣ひでつかふ「ゐ」「ゑ」が(配置の待遇が悪いのはやむを得ないとして)標準で組み込まれてゐることなどは、個人的に嬉しい。飛鳥をおぼえた上でまた覚えるのはどうかと思つたが、触つてみると結構おぼえやすい。マトリクスといふ拗音打鍵用の仕様もあるが、個人的には、まだ綴り単位で出すのになれてゐるので保留。実際の運用でどれだけつかへるやうになるか、ためしていきたい。


9/21

 デモ用に、般若心経の打ち込みの練習をする。配列は飛鳥配列。はじめは手に惑ひがあり、かなりとろく十七分半といふ記録であつたが、何回か練習したら、十四分をきつた。小指の痛みは、座高を少し高くしたら結構改善した。文字をかくにも鍵盤叩くにも姿勢は大事と実感する。特に親指シフトの場合、指の連携が大事になつてくるので、手が固定されて指が不自由になってしまってはいけないのが前提になるとおもふ。手はできれば浮かせるのがよい。浮かせるのは疲れないのかといふ疑問もあるが、昔の日本人は、短冊を書くにも書簡をしたゝめるにも、机をつかはず、紙を手に持って手を浮かせて書く生活をしてゐたものだから、たぶん無駄な力を抜くのが大事なんだらうかと思ふ。今の、子供の時からコンピューターいぢってきてゐるみたいな人は、子供が勝手に鉛筆持ち始めて変な持ち方を覚えてしまふのと同じやうに、正しい姿勢を習はないまま十年もやってくることがあって、昔の専門タイピストの培ってきたさうした知恵を知らないことがある。(僕もそのくちだ。)NICOLAをつかってゐた際にも、手が浮いて、指が立った状態になる方が各段打ちやすかった。もし親指シフトを実践しようといふ人は、姿勢に気を付けられたい。あと、ノートパソコンだと、普通のキーボードが坂になつてゐるのと異なり、水平につくられてゐるので、これも打ちやすさに影響するかもしれない。


9/20

 大体の解説が出揃つた。あとは、この入力がどんなものなのかがわかるやうなデモに、実際の打鍵動画を撮りたい。しかし、普段の打鍵も遅く、開発者自身まだ完全に慣れてゐないので、いま撮ってもあまりさまにならないのではないかといふおそれがあつて中々とれない。

 開発当初は、JIS配列に親指シフト要素を組み合はせた配列(濁音・拗音・ヰヱヲ等を親指シフト方式で入力する)を使つてゐたが、このときはまだ、タッチタイプもできなかったし、打鍵効率の事は気にもとめてゐなかつた。今年に入つて、仕上げ段階にさしかかつて、鍵盤の勉強のために、山田尚勇『文字入力とテクノロジー』といふ本を読んで、打鍵効率のことも考へなきゃなと思つただけな感じだ。そもそも仮名の鍵にあてるといふ発想からして、配列の設計などを一切度外視した発想だと思ふけれど。今年に入ってから、夏からNICOLA配列を習ひ、それも覚えたあたりで飛鳥配列に乗り換へて習ひ、いまは飛鳥でのろのろ文章が打てるやうになつたくらゐの段階だ。いまは殆どタッチタイプで十本指を使つて打てるやうになつた。

 この入力方式を三配列とも使つてみた感想は、やはり、打鍵の運指に無理が生じやすい。そもそも仮名配列は、日本語の仮名の綴りが効率よく打てることを理念として設計されたものであるから、漢字の字形を仮名の字形に無理やり当てはめた仮名列が、うまく適合するものではない。NICOLAも飛鳥も、右の薬指・小指に偏りがちな気がする。NICOLAは忘れたので、飛鳥でいふと、漢字でよくつかはれる「木」「口」「丷」「八」「人」「艹」にあたる「ロ」「ホ」「ソ」「ハ」「イ」「サ」などが、右端に寄つてゐる。特に「サ」は頻度のわりに位置がつらい……。実際右腕が痛くなつてきた。

 最終的には倉頡の代替になるくらゐに漢文を打てるやうにするのが目標であつたが、長年倉頡を使つてきた慣れによる差もあるが、配列に工夫なしだと、そこまでは厳しいと思はれる(かう比べてみると、倉頡が速く打ちやすいのは、やはり配列がよく設計されてゐるのだらうと思ふ)。字形を仮名にあてたのは、万人に使ひやすいやう極力既存環境で導入できるやうに(倉頡のやうな新しい配列をおぼえる負担がないやうに)したといふ意味もあつたが、効率を考へた場合はむしろこの方式用の配列も必要かともおもふ。また、構想だけだけれど、この方式を漢直化した方式なんかもひとつ、思ひ描いてゐたりする。実現性は不明。その意味で、現段階では、単漢字や特定の用途に限つた「入力補助」としての活用を、この入力方式の効能に挙げるにすぎない。

 ほかの仮名配列もためしてみたい。


9/19

 打鍵の変更。「ナ」は「右」「友」の字形の左上部に対応させるのが常識的であるが、従来は「十」の打鍵をあてるために「十」は「ナ」に、「右」「友」の左上部は「メ」にあててゐた。これは、「ナ」に「十」と「右」「友」の左上部とを同じく当てると、「古」「右」などの差別がうまくいかないからである。しかし、開発者本人としても「右」「友」の左上部を「ナ」にあてず「メ」に充てるといふのがなじまず、打ち違へる事も多かつたため、この度は、「右」「友」左上部を「ナ」にあて、「十」は「キ」にあてることにした。これは、「キ」の古体仮名の一つによる。(そこまで一般的な字形ではないが、何かしら根拠となるものを据ゑる形で打鍵を充てる姿勢でゐる。)

ほかにも、かねてから五十音図内に収めたいと思つてゐる打鍵について、「一」を「ッ」でなく「ヘ」に、「囗」を「。」でなく「ワ」に、などついでに方法を考へたが、どうにもうまくをさまらず、ひとまづ変更なく今のままに。


9/15

 ひとまづは、いぢくるところがなくなつたので、この段階で、初版の完成とする。このサイトで公開。説明等のページを作りたいが、下書きしてある文書をまとめたりするのもむづかしく、またウェブページの作り方がわからないので手間取つてゐる。

 名前がないのが困るので、とりあへず、「難波江」と名付けた。「難波江の葦間かきわけふみみれば濱つ千鳥の跡ぞおきける」と自詠した。仮名の書式に「葦手」といふのがある。中世では、歌を主題として文字を隠した絵の表現をいふ。難波江は葦の茂つた難波の入り江である。そのやうに、葦手の仮名をたどることで、鳥跡の漢字を求められる入力方式が、この「難波江」である。


9/14

 新字旧字不分の符号で、新字形の打鍵を出力できるやうにした。たとへば、「僧」(U+50E7)は、中国・台湾・香港・朝鮮・越南においては、日本の旧字に相当する字形が標準になつてゐる。しかし、日本ではこの符号は新字の字形を標準としてをり、旧字体の符号は別に用意されてゐない。実質は、新字と旧字が、この符号において一緒に適応される形となる(日本の旧字体系を、台湾や韓国の規格を借りてかんがへる)。新字形導入入り切りの切り替へも可能。切りの場合、旧字の打鍵(イハ。ヨ)のみ出力。入りの場合、旧字の打鍵(イハ。ヨ)と新字の打鍵(イソ。ヨ)を出力。分析式では、新字形対応字には「=NS」(日本新字)にて表記。この表記を持つ式を判別して、偏旁においても=NSのある式を優先して取ることで分岐する。

打鍵被りの字について、JIS等の規格に基づいてIMEにおける変換候補の優先順位を決める方式を模索したが、みあたらないので断念。保留。「IME 候補 順番」でgoogle検索した。参照したサイト

Windows10 IME の漢字変換候補文字の表示順位 - マイクロソフト コミュニティ
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